4.株式会社渡辺組の想い


~東日本大震災と原発事故に打ち勝つ気概と覚悟~







 株式会社渡辺組
 代表取締役 渡辺大輔


 まず、この一連の事業がどのようなものであるかについて触れておきたいと思います。
東日本大震災の発災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年以上の月日が経過しました。
全国的には東日本大震災の影響などは既に報じられなくなり、あれだけの犠牲を払った悲しい記憶も、風化の一途を辿ってきていることと思います。しかし、私たちの暮らす福島県内では、未だに震災の残した傷跡は色濃く残り、沿岸部では防潮堤の整備や住宅地の高台移転事業などが進められており、そして原発事故の影響によって未だに9万人を超える被災者が避難生活を余儀なくされています。
また、この原発事故の影響により、多くの人が放射線に関する誤った知識を持ってしまったことも相まって、根強い風評被害を呼んでおり、「ふくしま」という一言がつくだけで、「危険だ」「健康を害する」というマイナスイメージとなってしまい、観光産業や農林水産業に壊滅的なダメージを与え続けています。

 このような環境の下「農業で地域を元気にしたい」「子どもたちに誇りの持てる地域産業を作りたい」という崇高な理念を掲げ、震災による圧倒的なビハインドと闘い続けている地域の仲間。それが今回のオーナーである元木寛社長であり、震災前から「いわき青年会議所(JC)」通じた活動で、子どもたちへ誇れる地域づくり活動を、ともに進める旧知の間柄でもありました。

 そんな元木社長から、「ワンダーファーム」の構想を聞いたのは2013年のこと。
現状を維持するだけでも本当に大変な状況下であるにも拘わらず、逆境をチャンスととらえて勝負に出るという元木社長を全力で応援したいという思いに駆られ、利益度外視で全社挙げて応援することを約束しました。
そして、ワンダーファーム建設事業にかかる造成工事と進入道路の建設工事を担うことになりました。
当初より厳しい工事内容でしたが、何とか工程どおりに進み、オープンまでこぎ着けられそうな目途が立ってきたころ、元木社長から再び相談がありました。
「今回設置される農業用ハウスの下の地盤改良をしたいんだけど、とても予算に合わない。」
程なくその状況を確認するために、オーナー、土木設計コンサルタント、農業用ハウスの施工会社、弊社による打ち合わせが開催されました。当初の計画では、セメント系柱状改良工法での施工を検討されていましたが・・・

     ・地下水位が高い
     ・腐植土がある
     ・施工エリアが借地の農地である
     ・将来は地権者へお返しする必要がある
     ・保証対象外となる施工のため、より安全なものでなければいけない

 これらの問題点から、次の世代へ負の遺産を押し付けることになるリスクをご説明させていただき、そのリスクを回避することができるHySPEED工法をご提案させていただきました。結果、元木社長だけではなく、土木計コンサルタント、農業用ハウスの担当者も今回の案件に最適な工法であるという結論をいただきました。

  しかし、あらかじめ地盤改良の期間は計画されていなかっ
 たため、急ピッチでの施工が進められることとなりました。
 各社で工程を詰めていき、さらには言い訳一つせずに、今回
 の事業に寄り添ってくださった株式会社中井工務店様と株式
 会社吉田設備様からの応援をいただき、無事に予定工期の中
 で納めることができ、ワンダーファームは無事にグランド
 オープンにたどり着くことが出来ました。


 今日、ワンダーファームを訪れると、子ども連れの家族がJRとまとランドいわきファームでの農産物収穫を体験し、そして併設の「森のキッチン」で楽しそうに地元産の食事を食べ、満員御礼の賑わいを見せています。
そんな子供たちの屈託のない笑顔を見ると、本事業に参画したことが誇りに思えてくるとともに、震災と原発事故を克服し、復興への確かな一歩を歩んでいると実感することが出来ます。
全国各地、世界各国から一人でも多くの人がこの施設を訪れ、ありのままの被災地に触れ、徐々に「当たり前の日常」を取り戻しつつある被災地の現状を広く伝えてくれることを願ってやみません。
 世界的に有名になってしまった「FUKUSHIMA」が真の復興を果たすには、まだまだ長い時間を必要とします。国や地方自治体が、私たち被災者に対して何をしてくれるのかを待つのではなく、自分たちにできる最大限の努力をもって、ふくしまの復興をこの手で勝ち取っていきたい。そう心に近い、この地域で育った子供たちに、復興を実感してもらえるよう取り組んでまいります。


ワンダーファームともども、今後とも「ふくしま」に心を寄せて下さいますよう、
心からお願い申し上げます。





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